web漫画 | TamLab 授業のおもちゃ箱 https://tamlab.fc2.page 情報系科目の講義資料とツールを公開 Sat, 30 Nov 2024 11:02:47 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.7.2 PythonアプリでSpeech SDKを使う https://tamlab.fc2.page/category-system/category-programing/2551/ https://tamlab.fc2.page/category-system/category-programing/2551/#respond Sat, 30 Nov 2024 11:02:46 +0000 https://tamlab.fc2.page/?p=2551 Pythonで作るアプリケーションソフトにMicrosoft AzureのSpeech SDKを組み込もうとしています。主な目的は,PPTXファイルにナレーションを組み込むアプリ(PowerpointNarrator)のテキスト入力の補助です。インストールの手順などの備忘録として残しておきます。

Azureについて

Azure(アジュール,Microsoft Azure)は,Microsoftのクラウドコンピューティングサービスです。様々なサービスの中にSpeech Serviceがあり,マイクロフォンから入力した音声データをテキスト化するSpeech to Textなどに使うことができます。

以下,参考にしたURLはその都度紹介します。

SDKのインストールの手順

Quickstart: Recognize and convert speech to text

クイック スタート: Speech SDK のインストール

を参考にしました。

準備

以下のような手順で進めました。

1)システム要件を確認

  • Windowsの場合,64bitターゲットアーキテクチャが必要(Windows10以降である必要)
  • プラットフォームに対応した Visual C++ 再頒布可能パッケージがインストールされていること
  • Python のバージョンは 3.8 以降

2)Azureアカウントを作成し音声サービスを使えるようにする

私はAzureのアカウントを持っていないので,次のような作業になりました。

  • Azureアカウントを作成する
  • サービス用のAzure サブスクリプションとSpeech resourceを作成
  • Speech resource key と regionコードを取得する

少し詳しく説明します。

・Azureアカウントを作成する
 https://azure.microsoft.com/ja-jp/free/ にアクセスしてアカウントを作成しました。
 Microsoft Accountを持っていることが必要です。Azureの無料アカウントは、新規Azureユーザーのみ1つだけ利用可能となっています。
 必要な情報を入力し,最後にクレジットカードによる認証を求められました。あくまでも認証のためで,入金が必要になった場合は別途要求する・・・とのことです。しかし,もしこのサイトがMicrosoftを騙るサイトだったらえらいことになっちゃいます。いったん作業をやめて考えてから,もう一度やり直しました。

支払いが発生しないアカウントはカード無しで作成するようにしてもよいのにと思います。ユーザ側もきちんとサービスが働いていることを確認できれば,偽サイトではないとわかるのですから。でも,始めのうちはサービスを提供するようにした巧妙な偽サイトを作られたら,どうしようもありませんが。

・Azure サブスクリプションを作成
 Azure のPortalサイトのホームで“サブスクリプション”と表示された鍵の形のアイコンをクリックし新規の無料サブスクリプションを作成しました。サブスクリプションの名前はサイト側で用意した“Azure subscription 1”をそのまま使いました。

・音声サービスのリソースを作成
 ホームから“音声サービス”のページに移動し,メニューにある“作成”をクリックするとSpeech Services の作成というタイトルのページに移動します。

次の図1のように,幾つか設定する項目があります。

図1 Speech Services の作成ページの表示

  • サブスクリプション
    使用するサブスクリプションを選びます。“Azure Subscription 1”しかないので,そのままにします。
  • リソースグループ
    既存のグループはないので,新規作成します。リソース名はSpeech2Textとしました。
  • リージョン
    アカウントを持つユーザの所属する地域です。Japan Eastを選択しました。(図1ではEast USとなっています。)
  • 名前
    適当に入力しました。ちゃんと考えて決めればよかった・・・。
  • 価格レベル
    Free F0を選択しました。

この後の操作で,「タグ名と値」の設定を要求されました。上の図には表示されていません(再現できなかった)。タグ名:Tag0,値:0として設定して,特に今のところ問題はないようです。

・Speech resource key と regionコードを取得
 音声サービスをPythonコードから利用する際にSpeech resource key とregionコードが必要になります。これらを取得するには,音声サービスリソースのページに移動します(ホームのリソース欄でリソース名をクリック)。“キーとエンドポイント”という項目を見ます。

図2 キーとエンドポイントなどの設定

Speech resource key:“キー1”の右端をクリップしてをコピーして取得しました。長い文字列です。このキーは共有しないようにすることが必要なので,作成したアプリを他のユーザに使ってもらう場合には注意が必要です。

regionコードは,“場所/地域”の欄に書かれている“japaneast”という文字列です。

Speech SDK for Pythonのインストール

クイック スタート: Speech SDK のインストール というサイトの記述に従って作業をしました。

pip install azure-cognitiveservices-speech

でインストールしました。

動作確認

サンプルコードをダウンロード

動作確認するため,サンプルコードを探しました。以下の2つのファイルをダウンロードしました。

quickstart.py 参考にしたサイトのURL

speech_recognition.py 参考にしたサイトのURL

リスト1 quickstart.py

# Copyright (c) Microsoft. All rights reserved.
# Licensed under the MIT license. See LICENSE.md file in the project root for full license information.

# <code>
import azure.cognitiveservices.speech as speechsdk

# Creates an instance of a speech config with specified subscription key and service region.
# Replace with your own subscription key and service region (e.g., "westus").
speech_key, service_region = "YourSubscriptionKey", "YourServiceRegion"
speech_config = speechsdk.SpeechConfig(subscription=speech_key, region=service_region)

# Creates a recognizer with the given settings
speech_recognizer = speechsdk.SpeechRecognizer(speech_config=speech_config)

print("Say something...")


# Starts speech recognition, and returns after a single utterance is recognized. The end of a
# single utterance is determined by listening for silence at the end or until a maximum of about 30
# seconds of audio is processed.  The task returns the recognition text as result. 
# Note: Since recognize_once() returns only a single utterance, it is suitable only for single
# shot recognition like command or query. 
# For long-running multi-utterance recognition, use start_continuous_recognition() instead.
result = speech_recognizer.recognize_once()

# Checks result.
if result.reason == speechsdk.ResultReason.RecognizedSpeech:
    print("Recognized: {}".format(result.text))
elif result.reason == speechsdk.ResultReason.NoMatch:
    print("No speech could be recognized: {}".format(result.no_match_details))
elif result.reason == speechsdk.ResultReason.Canceled:
    cancellation_details = result.cancellation_details
    print("Speech Recognition canceled: {}".format(cancellation_details.reason))
    if cancellation_details.reason == speechsdk.CancellationReason.Error:
        print("Error details: {}".format(cancellation_details.error_details))
# </code>

5行目に
import azure.cognitiveservices.speech as speechsdk
とあります。音声/テキスト変換のサービスをするために,このimport文が必要になります。

また,9行目の,
speech_key, service_region = “YourSubscriptionKey”, “YourServiceRegion”
とあります。式文の右辺にある文字列”YourSubscriptionKey”を取得したSpeech resource keyの長い文字列に,”YourServiceRegion”を”japaneast”に,それぞれ置き換えます。

リスト2 speech_recognition.py

import os
import azure.cognitiveservices.speech as speechsdk

def recognize_from_microphone():
    # This example requires environment variables named "SPEECH_KEY" and "SPEECH_REGION"
    speech_config = speechsdk.SpeechConfig(subscription=os.environ.get('SPEECH_KEY'), region=os.environ.get('SPEECH_REGION'))
    speech_config.speech_recognition_language="en-US"

    audio_config = speechsdk.audio.AudioConfig(use_default_microphone=True)
    speech_recognizer = speechsdk.SpeechRecognizer(speech_config=speech_config, audio_config=audio_config)

    print("Speak into your microphone.")
    speech_recognition_result = speech_recognizer.recognize_once_async().get()

    if speech_recognition_result.reason == speechsdk.ResultReason.RecognizedSpeech:
        print("Recognized: {}".format(speech_recognition_result.text))
    elif speech_recognition_result.reason == speechsdk.ResultReason.NoMatch:
        print("No speech could be recognized: {}".format(speech_recognition_result.no_match_details))
    elif speech_recognition_result.reason == speechsdk.ResultReason.Canceled:
        cancellation_details = speech_recognition_result.cancellation_details
        print("Speech Recognition canceled: {}".format(cancellation_details.reason))
        if cancellation_details.reason == speechsdk.CancellationReason.Error:
            print("Error details: {}".format(cancellation_details.error_details))
            print("Did you set the speech resource key and region values?")

recognize_from_microphone()

動かしてみた

quickstart.pyを使って動作確認します。

マイクロフォンを接続して実行します。コンソールに何か喋るようにプロンプトが表示されるので,日本語でしゃべると,図3のようにテキストが表示されます。でも,英語アルファベットを使ったよくわからない文字列が表示されました。

図3 何の言語だろう?

変換の対象となる言語の設定が日本語設定になっていないためでしょう(デフォルトの言語が何なのかは,わかりません)。

もう1つのサンプル speech_recognition.pyを見ると,7行目に
speech_config.speech_recognition_language=”en-US”
とあります。ここで,言語をアメリカ英語に設定しているようです。Implement language identificationなどのサイトを見ると,この文字列を”ja-JP”に変換すれば日本語になりそうです。そこで,quickstart.pyの10行目の後ろに,

speech_config.speech_recognition_language=”ja-JP”

という行を追加して動かすと,マイクロフォンから入力した日本語の音声をテキストに変換できました。かな漢字変換もできています。

図4 ちゃんと日本語に変換された

他の言語の指定については,Speech SDKのドキュメントで確認するとよいでしょう。

以上で大体のことがわかりました。SDKのドキュメントを探して,それを参考にしながらアプリに組み込んでいく予定です。

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縦スクロール漫画の制作の基礎がわかる本 https://tamlab.fc2.page/category-books/2488/ https://tamlab.fc2.page/category-books/2488/#respond Fri, 15 Nov 2024 10:19:00 +0000 https://tamlab.fc2.page/?p=2488 パク ヨンジョ/著,金 智恵/訳:縦スクロール漫画制作の基礎がわかる本,翔泳社(2024)

縦スクロール漫画のテクニックはPPT教材に使えるか?

ということを考えていたので,図書館の新刊コーナーで見つけて,思わず借りてしまいました。

PPT教材に使えるのか,ということに関する結論からいうと

  • 縦スクロール漫画(ウェブトゥーン)はPPTのスライドショーと構造的に類似点が多い
  • しかし,ストーリーの提示を目的としている漫画のテクニックは,数学や工学のトピックの理解を目的としているスライドショーにはダイレクトに適用できないだろう

と感じました。そもそも目的がエンターテインメントと教材とでは異なっているので,当然といえば当然なのです。

エンターテインメント関連の技法書としては?

なかなか,いいのでは?

しかし,教材作製から離れて,エンターテインメント関連の技法書として読むと,以下に挙げる点でよくできていると感じました。

  • 漫画や映画さらにアニメなど「絵・動画とテキスト・音声で構成されるエンターテインメント向け媒体」を制作する上での,基本的な内容が解説されている
  • 解説はシステマチックで,図版も多い
  • 指示は具体的

本書で紹介されている技法や制作プロセスは,ウェブトゥーンだけに限定されいません。従来の漫画やアニメだけでなくテキストのみの小説などにも応用できる,基本的かつ一般化できる理論や技法がたくさん紹介されています。

説明の仕方はちょっと理屈っぽいと感じる人はいるかもしれません。しかし理屈だけではなく,どのようにすればよいかも具体的に説明されています。漫画の創作に関する本なので当然なのでしょうが,図版は多いです。ほとんどの項目の説明に図が添えられています。

以上のようなことから,この本自体が初心者向けの教材を作るときの「お手本」にもとなると感じました。

私は漫画制作に関する技法書を詳しく読んだことがありません。ですから本書が,これからウェブトゥーンや従来の二次元構成の漫画を描こうと考えている人に役に立つかどうかは,判断できません。でも,私にとっては,知らない,あるいは聞いたことはあるけれど意味のわからなかった用語が基本から解説されています。あまり期待しないで手に取った本なのですが,読んで得した気持ちになりました。

ウェブトゥーンとPPTスライドショーの比較は別稿に・・・

ウェブトゥーンとPPTスライドショーの違いについても書こうと考えていたのですが,まとめようとすると長くなりそうなので,別稿にすることにしました。その目的で描いた図のバリエーションの1つが下です。

図1 ウェブトゥーン(縦スクロール漫画)は「縦読みの絵巻物

この投稿では,本書「縦スクロール漫画の制作の基礎がわかる本」の簡単な紹介だけに留めておきます。

目次と筆者紹介

本書の目次と筆者紹介はAmazonのサイトでも閲覧できますが,以下に示しておきましょう。

PART 1 スマートフォンに適したコンテンツ、縦スクロール漫画
PART 2 縦スクロール漫画で作るストーリーテリング
PART 3 縦スクロール漫画の創作・制作プロセス
PART 4 縦スクロール漫画の演出技法
PART 5 心理描写とシーンの演出

ストーリー作りから始まって,創作・制作プロセスや演出技法について詳しく書かれています。PART 2~PART 4のタイトルを見ると“縦スクロール漫画”に限定しているように感じられるかもしれません。でも,内容は従来型の二次元配置漫画やテキストのみの文芸作品にも応用可能だと思います。

本書の「はじめに」と奥付の紹介によると,パクの経歴は以下のようなものです。

小さいころから漫画を描くことが好きだった。大学ではコンピュータを専攻しIT企業に就職した。30代半ばに漫画に挑戦したいと考えて大学院に進学し漫画とアニメーションを専攻し,芸術学の修士と博士号を取得している。しかし,大学院では研究が目的であるため,ストーリーの作成や作画は独学で学ぶしかなかった。

その後,IT企業で働きながらウェブトゥーン作家としてデビューした。しかし,連載を始めた5つの作品は全て3か月で終了することを余儀なくされ,ちゃんとした作品を創りだし続けることの難しさを味わった。そこでスタジオチームを結成することにし,その結果,ウェブトゥーンの本格的な連載ができるようになった。現在のパクは,ウェブトゥーン作家兼プロデューサーとして活動し,大学などでの教育にも従事している。

<詳しく読む>

技法書マニア
私の学校での図画工作や美術の成績は惨憺たるものでした。それなのに,ちょこちょこ落書きするのは好きでした。そして,ある程度お小遣いが自由に使えるようになると,美術関係の技法書や,ちょっとお高い「デザインの現場」などの雑誌も購入して読んでいました。自分ではちゃんとした絵は描けないのに,どういう道具を使うのかとか,こういうイラストはどういう手順で描くのか,というツールや作製プロセスには興味があったのです。

<閉じる>

本書の「はじめに」に,

最初に私が経験した困難を振り返り,縦スクロール漫画制作の入口だと思われるネーム(絵コンテ)の演出を基本に,作品創作初期に難しさを感じている作家志望者の方々や,縦スクロール漫画作品を初めて制作する作家の皆さんのために構想に至った本書が,縦スクロール漫画の制作に少しでもお役に立てればと願っています。(p.004)

と書かれていることから,作家志望者など初心者を対象とする入門的な内容であることがわかります。

感想

印象に残ったところを挙げていきます。

ストーリーテリング

本書のPART 1でウェブトゥーン(本書内では“縦スクロール漫画”と呼んでいる)の特徴が紹介されていて,PART 2からが本格的な内容になります。その始まりのPART 2で述べられているのがストーリーテリングなので,これが,まず押さえておくべき大事なポイントであることがわかります。PART 2の冒頭で,

ストーリーは,時間の流れの通りに羅列された物語のこと。

ストーリーテリングは,物語を構成し効果的にテーマを伝える方法のこと。(p.030)

のように,ストーリーテリングの定義を与えて,それに続いて,ストーリーテリング化に必要な要素や劇的な構造の創り方について説明があります。私は,この部分がとても面白いと思いました。このような分野の知識がほとんど無いこともありますし,講義や研究発表の資料を作るときは,いつも「この内容をどういうストーリーで伝えようか」と考えていたからです。

演出技法

PART 4,PART 5では様々な演出技法について説明されています。紹介されているものの多くは,映画の演出技法を基にしているようです。コマが二次元に配置された従来の漫画でも,映画の演出技法の影響を受けている(と何かで読んだ覚えが・・・)ようです。

コマの配置が上下の一次元配置であるウェブトゥーンは,従来の漫画と異なり視線の左右・上下の移動というリテラシー(読みのスキル)は不要になります。その分,視線の移動がさほど要求されない映画で使われている演出技法との馴染みが,より強いのだと思います。

気になったところ

気になったところもあります。本書の記述は「システマチック(体系的)だ」と書きました。筆者のパクがIT技術者を経て大学院で博士号まで取った研究者だったということが関係しているのだろうと思います。理屈っぽい印象を受けるのもそのためでしょう。(研究者・学者は,名前を付けたり分類したり一般化したり法則を見つけたり,理屈をつけようとするのが習い性なので仕方ないのです。)

しかし,その理屈の基になる根拠が示されていないことが多いのです。例えば,PART 4の「左右・上下の視線の流れで作る感情表現」の項で,左から右への視線の流れや右側の空間は未来を意味する,逆に右から左への視線の流れや左側の空間は過去を連想させる,と述べられています。しかし,その根拠は示されていません。

左→右の方向が未来を意味するというのは,横書きで左から文字を並べていく欧米の習慣に基づいていると考えられます。時間変動を表すグラフなどでも,時間の進む方向は左→右の向きです。「右肩上がり」などという表現は,これを前提としています。

しかし,伝統的な日本や中国の書物では,縦書きで,行は右から並べていくので,時間の流れは右から左へとなっています。図1に示した絵巻物なんかもそうです。したがって,本書で述べられている“時間軸は左から右へ”に基づく技法が人間に元々備わっている性質に由来し全世界の人に通用できるかどうかは疑問,です。

同様のことは他にもあると思います。でも,本書は初心者向けのものです。一々,根拠や出典を示していたら,とても読めない本になってしまいます。それに,読んでいて「あれ? ここはどうしてだろう・・・。」と疑問に感じさせたり考えさせたりる部分が含まれていることも,教材として大事な点だと思います。

本書は,索引がついていて,そこも教材として高く評価できる点です。例えば「あ行」を見ると,「アイリスショット」,「アイレベルショット」,「憧れ」,「アポカリプス」,「歩く死骸症候群」・・・と続いています。全く知らない,あるいは何となく意味はわかるけれど説明できない言葉が結構含まれています。(あ行に挙げられている15個の用語だと,全く知らないが7個,何となくわかるが説明できないが2個でした。) 

このような,知らなかったことについて,わかりやすく(正しいかどうかは別にして)書いてあるので,読んで知識欲を満たせる本でした。もちろん,本当に役に立てるためには,手元に置いて何度も読み返す必要があると思います。

私の知識欲が満たされたからといって,ウェブトゥーン作家を目指す人の役に立つかどうかはわかりません。この本を繰り返し読んで,理屈を理解し一般法則を見出し,それを適用したとします。作成プロセスでの苦労は減るかもしれません。でも,面白い作品ができることが保証されるわけではないことも確かでしょうね。

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PowerpointとiSpring Suiteでweb漫画を作れるか? https://tamlab.fc2.page/category-books/category-books-art/2329/ https://tamlab.fc2.page/category-books/category-books-art/2329/#respond Tue, 23 Jul 2024 00:25:50 +0000 https://tamlab.fc2.page/?p=2329 突然なのですが、PowerpointとアドインソフトiSring Suiteを使ってweb漫画を作れるか? について試してみました。

iSpring SuiteはPowerpointでeラーニング教材を作るためのソフトウェア製品です(iSpring社のサイト )。私はこれを主に工学部の学生さん向けの教材作りに使ってきました。

どうして教材作りのためのソフトウェアでweb漫画を描こうなんて思ったのか。その説明をしなければなりません。でもその前に、せっかちな方のために結論から申し上げると、

  • PowerpointとiSpring Suiteの現在の仕様では不十分
    元々スライドショーによるプレゼンを目的とした製品なので、web漫画用には向いていないところがある。また、iSpring Suiteには正確に変換できないPowerpointアプリの効果があることもわかった。
  • 漫画・イラスト・絵本などの新しいメディアとしての可能性
    絵(グラフィックス)と文章、セリフ(“吹き出し”)などを組み合わせた作品の閲覧や配布の方式としては可能性がありそう。

結果を早く見たいかたは、以下のリンクをクリックしてください。別タブで表示されます。画面内でのマウスクリックまたは下向き矢印でコマ送りされます。詳しいことは、投稿の後ろの方で説明します。

<サンプル(通常版)>   

<サンプル(オーバーレイ版)>

そもそも教材と漫画では設計思想がだいぶ異なります。実際、私が作ってきた教材は漫画のようなアナログで芸術性も求められるものとは対極のものです。グラフィックスもデジタルで作っているし、内容は技術系のものばかりです。

ですから、「どうして唐突に漫画の話になったのか」が気になると思います。

発端

友人の佐川俊彦に手紙を出したのは今年(2024年)の6月の末のことです。佐川とは小中高と同窓でした(佐川の御父君の転勤のため空白期間はありますが)。

<注を読む>

「読書日記」のどこかの投稿にも書いたと思いますが、このwebサイトの投稿では、ちゃんとした書籍の著者や研究者・学者の氏名には敬称をつけません。それが敬意を表すことになるからです。

研究者、学者、クリエイター(気取った呼び方ですが)でも何でも、その個人を独立したプロとして認めている場合は敬称をつけないのです。少なくとも理科系の学問ではそうなっています。“アインシュタインの相対性理論”であって、“アインシュタイン先生の相対性理論”などとは呼びませんよね。〇〇教授の研究室に院生□□君がいたとします。公の場では、〇〇教授は「□□の提案した方法」、□□君は「〇〇らの提案によれば・・・」のように発言します。文科系の学問ではどうなのかはわかりませんが。

もっとも、佐川とは会えばタメグチで話す仲です(めったに会ったり話したりしないのですが)。敬称を略しても、互いに何てことはないのです。

<注を閉じる>

佐川は、長らく漫画編集者として働いていて、Juneという雑誌を立ち上げたことで知られています。現在は京都精華大学マンガ学部の教授です。(先日、図書館に行ったら、週刊文春のコラムにインタビュー記事が掲載されていた。7月4日号?。)

その彼に手紙を出さなければならない用事があり、その後、電話とメールでのやりとりが続きました。

そのさい、幾つか質問をしたのです。

  • イラストを引用するとき気を付けるべき著作権の問題
    在籍中は教育目的の利用だったので著作権の問題はそれほど気にしていなかった。このwebサイトではイラストを引用することがあるが、「記憶スケッチ」をしたり模写も一部のみに留めたりするなど、気を使っている。
  • web漫画の「縦スクロール」ってどうなの?
    ここで「縦スクロール」とはスワイプによりページ単位ではなく1コマ単位で縦に閲覧していくウェブトゥーン(Webtoon)のこと。スマホの縦長の画面に適しているらしいのでスライドショー教材に利用できるかしらと興味を持った。
  • 漫画業界でのAIの利用について
    昨今は、どうしても、この話題が出てくる。

やはり何でもその道のプロに聞いてみるもので、いろいろ面白いことがわかりました。「著作権の問題」、「AIと漫画」については別の機会にゆずることにします。二つめの質問「web漫画の切り替え方式」に関してお話していきます。

本題に入る前に、「導入」として2コマ漫画の例を示しましょう。

「世界で一番短い推理漫画」(ヤじるし) 書いた当時は鉛筆描き 筒井康隆並びに青山豪昌に負うところ多し

これは、今をさかのぼること二十数年前に私が描いた2コマ漫画を、記憶を基に再現したものです。当時小学生だった子供が、宿題かなにかの課題で提出しなければならない、でも描けない何とかしてくれ、と泣きついてきたのです。提出の日の朝に。

それで、出勤を15分ほど遅らせて描きました。「これは原案だからね。後は自分で何とかしなさい。」と言って鉛筆で描きました。コマ数も4つなんて描けないので2コマにしました。その後、色くらいは本人が塗ったのかもしれませんが、ほぼそのまま提出したようです。

<詳しく読む>

1コマ目の人物は、1994年連載開始の推理漫画の主人公だということはわかるでしょう。ストーリーというかプロット(2コマ漫画にそんなものあるのか?)の方は、どうでしょうか? セリフは、筒井康隆のショートショートにあった「世界一短い推理小説」(題名は間違っているかも)を借りてきました。筒井康隆の意図を活かすのなら、2コマ目だけを使った1コマ漫画にすべきなのです。でも課題が「複数コマの漫画を描く」だったので1コマ目を加えたのだと思います。

というわけで「キャラクターもセリフも他人の作品のパクりじゃないか」と言われれば、その通りです。気持ちは「本歌ほんか取り」なんですけどね。

<閉じる>

この例でもわかるように、通常の漫画は複数の「コマ」で構成されており、それが一度に画像として表示されています。新聞の4コマ漫画では4コマ全部が提示され、複数のページにまたがることはありません。雑誌の場合は、1つのページが複数のコマに分割されていて、それが複数のページにわたって提示されます。

漫画のリテラシー

上に述べたように一度に目に入ってくる複数のコマを、読者は1つ1つ順番に読んでいきます。新聞などの4コマ漫画の場合は、上から下へという順になります。

4コマ漫画のコマの並びは1次元です。ほとんどの人は上から順番に読んでいくと思います。(もちろん生まれて初めて4コマ漫画を読む人、赤ちゃんとか、がどんな順番で読むかは、調べてみないとわかりませんが。)

一方、漫画雑誌の場合は2次元つまり縦と横に拡がった配置になります。そして、日本の漫画雑誌の場合は、右から左、上から下という順にコマを読んでいきます。

<詳しく読む>

実際の読み手の眼や頭の動きは、もっと複雑なことをしているのかもしれません(既に誰かが調べているかもしれません)。読み手はあるコマを見ていると同時に、前後の(あるいはページ全体の)コマに描かれている情報も利用している可能性があります。また、コマの間の「つながり」を周辺視覚から得ているかもしれません。複雑になってしまうので、この辺りのことには深くつっこまないことにします。

<閉じる>

実はこのような読み方が公式(?)なのだ、ということを今回調べて初めて知りました、そんなことを教えてもらったことはありませんし、親や友人・先輩が読み方を教えてくれたという記憶もないです。でも当たり前のように漫画は読めています。たぶん日本にいるほとんどの人は意識しないで漫画を読んでいるでしょう(例外はあるみたいです)。しかし、このような漫画の「読み方のリテラシー」は万国共通ではないようです。

以下は佐川から電話で聞いた話の、web漫画に関する部分の要点です。

  • 漫画が読めない人がいる
    京都精華大学の彼の研究室には中国や韓国からの留学生が在籍しています。その中には、雑誌の漫画が読めない人がいて、例えば大きいコマから先に読んでしまう、というのです。欧米の雑誌は左から右の順なので、日本の漫画を海外で出版するときは版を左右反転するということは知っていました。しかし、コマを読み取れない人がいるということは意外でした。
  • 絵本
    そのせいかどうかわからないけれど、現在、中国や韓国で絵本に興味を持つ若い人が増えているそうです。ほとんどの絵本は1ページまたは見開き2ページで1枚の絵になっているので、コマの読みとりの問題はなくなります。
  • 縦スクロールのweb漫画
    佐川によると「縦スクロールのweb漫画の出現の背景には、簡単で安易な方に流れる傾向がある」ということです。縦スクロール方式では、スマートフォンの画面に一コマの画像が表示されていて、縦方向のスワイプで上下にスクロールします。これなら、コマの配置は一次元つまり一方向になり、二次元配置の場合の読者の読みとりリテラシーは不要になります。要は「読むのが楽」ということになります。
    今後、漫画の新しい閲覧や配信の技術が出てくるとして、それは読者の「認知的コスト」や「認知的負荷」を小さくする方向、つまり楽な方向に進んでいく。その結果、印刷された漫画の単行本や雑誌は読まれなくなっていくだろう・・・というのが佐川の意見です。

漫画のコマの読みとりリテラシーがあること、リテラシーの無い人でも読めるように工夫されているのがウェブトゥーン(Webtoon)に代表される縦スクロールのスマホ漫画であり、漫画業界もその影響を受けていくだろう、ということです。

縦スクロールの漫画を閲覧してみたら

Androidスマホを使って、縦スクロールの漫画(ウェブトゥーン)を閲覧してみました。ほんの1,2の例だけです。私が気が付いたことをまとめると以下のようになります。

  • コマとコマの間に余裕を持たせている
    たぶん、1つのコマを閲覧しているときに上下のコマが画面に入らないようにするためだろう。
  • 上下のコマの情報もある程度把握できる
    とは言え、コマとコマの間隔はあまり広くはなっていないので、上下のコマの情報が把握できる。読み終わった上のコマや、次にくる下のコマを目に入れた状態で画面の切り替えが可能になる。
  • 背景
    セリフの“吹き出し”がコマからはみ出している作品があった。また、別の作品ではコマとコマの間の背景にあたる部分に紙の表面のような模様(テキスチャ)がつけられていた。個人的には、これらの演出により、コマとコマのつながりやスクロールの“流れの速さ”を実感できるように感じた。また、縦方向のスクロールはスワイプの動作に比例したアナログな動きになっている。

以上のように、コマからコマへの移動や注目は楽にできると同時に、漫画全体の流れも意識できるように工夫されているようです。これは、元々複数のコマを同時に見せていた紙の漫画を、アナログ感を残してデジタル化したことから来るのだと思います。1枚1枚の静止画を切替えながら見せるスライドショーをルーツに持つPowerpointとの違いでしょう。

他にもいろいろと工夫がされているところがあるだろうと思います。私は上に紹介したような演出が印象に残りました。「部分に注目させると同時に全体の流れも意識させる」ための工夫はPowerpointを使ったプレゼンでも重要になるからです。

PowerpointとiSpringでweb漫画を作ってみる

私は冒頭で例に挙げた「世界一短い推理漫画」しか描いた経験がありません。誰かに原画を作ってもらうのでは時間がかかるし「棒人間」でごまかすのは面白くありません。自分でやってみると得られるものがあるかもしれないというので作ってみました。線画を作る処理に興味があったので、3DCGを基にします。手順は以下のとおりです。

ⅰ)原画を用意する
 3DCGソフトのDAZ Studioでキャラクターにポーズを取らせて画像を生成。これを画像処理ソフトのGimpで加工。

ⅱ)Powerpointのスライドショーを作る
 画像をスライドに貼り付け、吹き出しなどを付ける。2枚目以降のスライドの「画面切替え」を“プッシュ”にしておく。これは、スライド切替えのときに上から下へのスクロールのような効果を持たせるため。複数の吹き出しが同時に表示される版と、オーバーレイ方式で追加されていく版2つを作成した。

ⅲ)iSpring SuiteでHTML5変換 
 <PowerpointとiSpring Suiteでweb教材を作る>に紹介した方法でPlayerの設定をする。さらに、Playback and Navigationの設定に移り、矢印キーでスライド切替えができるように設定する。

ⅳ)webサイトにアップロード
 WordPressのプラグイン(Insert or Embed Articulate Content into WordPress)を使った。

結果について

作った「web4コマ漫画モドキ」を以下に示します。この投稿の冒頭で示したものと同じですが、ページ内のウインドウに表示されます。通常版は、1コマ分が一度に表示されます。一方、「オーバーレイ版」では、吹き出しが発言の順に現れ、コマが切り替えられるまでその場に残っています。次の吹き出しが現れると同時に消すというやり方も可能ですが、試してはいません。

サンプル(通常版)

サンプル(オーバーレイ版) 吹き出し発話順に出現していきます

結論は冒頭でまとめた通りです。補足します。

1)PowerpointとiSpring Suiteの現在の仕様では不十分
 問題と思われる点は以下のとおりです。

  • 画面切り替え
    前後(上下)のコマのつながりを意識させた画面切り替えが難しい。今回、スライド切替えの効果を“プッシュ”にすることで、縦スクロールのような雰囲気を持たせようとしているが、十分とは言えない。
  • スクロール
    画面を自由にスクロールできない。このため、複数のコマが同時に提示される漫画の「アナログ感」が乏しい。
  • 効果イフェクトを再現できないことがある
    Powerpointの効果をiSpring Suiteのスライドショー変換で再現できないことがある。今回わかったのはスライド切替え効果の“プッシュ”で、スライド前進のときは問題ないが後退のときにPowerpointアプリとは異なる挙動になる。他にも変換できない効果があるかもしれない。iSpring社のサポート担当に問い合わせてみるつもり。

2)新しいメディアとしての可能性
 絵、吹き出し、文章などを組み合わせた静止画をコマ単位で見せるだけでなく、これらの要素を出現・消滅や動きなどの効果を付けて表示できます。ウェブトゥーンではアニメーションを組み込んだ作品もあるそうですが、Powerpointでもアニメーションを組み込むことはできます。そのような作品はもはや「漫画」とは言えないものになるかもしれませんが、漫画から派生した新しい表現媒体になる可能性はあります。

今回は、プレゼンでよく使う「オーバーレイ方式」を吹き出しの表示に試してみました。でも余計なお世話という印象も持ちました。「漫画のリテラシーを身に付けさせる教材」に使えるかもしれませんが、そんなのいらない! と言われそうです。

3)その他
 今回注目したスライド切替えやスクロールとは別に、気が付いたことがあります。キャラクターは、手描きではなく3DCGソフトのDAZ Studioで作成したフォトリアルな画像を「漫画風」に加工して描きました。しかし、諧調が残っているので細部に注意が向いてしまい、漫画として読むときに邪魔に感じます。

実際、フォトリアルな画像に吹き出しを付けた作品がありますが、細部に注意が向くためなのか読みにくいと感じます。

漫画の、濃淡情報を省いた線画は、手抜きのために採用されたものかもしれませんが、結果としてセリフやストーリーを邪魔しない表現になっているのかもしれません。家電製品の取り扱い説明書でも、写真ではなくイラストを使った方が理解しやすいと言われています。このことは、スライドショーのデザインで一番大事だと思うポイント「注目させたい情報を制限する」と共通しています。

※画像の一部を変更しました(2024/07/29) 肌の塗りや髪の諧調を減らしています。個人的には変更後の方が好みです。

結局、ウェブトゥーンってどうなの?

ウェブトゥーンに関しては、漫画表現が縦長ディスプレイを持つスマホに合わせて変化して出てきたものです。なので靴に足を合わせるような無理な感じを受けてしまいます。視野が狭い縦長の世界に閉じ込められるようです。

一方、それは私が古い漫画のリテラシーしか持っていないから感じるものかもしれません。ウェブトゥーンの市場は拡大しつつあるようで漫画業界にとっては無視できない分野になりそうです。印刷技術などのハードウェアがコンテンツの創造や鑑賞のありかたに影響を与えることは、これまでも繰り返されてきました。web漫画の流れがどんな方向に向かっていくかは興味があります。

さて、今回の試みによって教材作成について何か得るところはあったのか?です。これは別の機会に譲りたいです(今回はそんなのばっかり・・・)。

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